ニュースリリース

ローソンエンターメディア元取締役による不正行為に関する第三者委員会最終報告について

2010年4月12日

平成22年2月9日「株式会社ローソンエンターメディア取締役による不正行為の発覚について」で公表しましたとおり株式会社ローソン(以下「ローソン」)の連結子会社である株式会社ローソンエンターメディア(以下「LEM」)の元取締役による多額資金の不正流出が判明した事から、外部専門家で構成する第三者委員会を設置し、事実関係の確認・調査、業務改善の検討を進めてまいりました。本日、第三者委員会から最終報告書が提出されました。ローソンとLEMは最終報告書を受け、今後の対応を決定いたしましたので、下記の通りお知らせいたします。
株主、投資家、取引先及びその他関係者の皆様に大変ご迷惑をおかけしておりますことを深くお詫び申し上げます。


 

1、最終報告書までの経緯
ローソンおよびLEMは、平成22年1月24日LEMの元取締役2名から、『コンサート企画会社へチケット代金を支払うべきプレジール社が資金を流用していたため資金難に陥り、(両名が)プレジール社に肩代わりして無断でチケット代金を支払った』との報告を受けました。直ちに顧問弁護士及び会計事務所の協力のもと、社内調査委員会を発足させ、調査を開始いたしました。社内調査の結果、LEM元取締役2名が資金をプレジール社に不正に流出させ、その被害総額は最大約150億円であることが判明いたしました。そして、この事実を平成22年2月9日に公表し、併せて、社内関係者の処分を行いました。(詳しくは、頭書の2月9日付公表文書をご覧下さい。)
同日(平成22年2月9日)付で外部専門家で構成する第三者委員会を発足させました。平成22年3月11日に第三者委員会より中間報告が提出され、中間報告書の全文及び緊急再発防止策を公表いたしました。(詳しくは3月11日発表の「ローソンエンターメディア取締役による不正行為への対応の進捗について」をご覧ください)
さらに、平成22年3月23日、被害総額が最大約144億円であることが確定し、また、回収の見込みが立っていないことから、全額を特別損失として計上する事を公表いたしました。(詳しくは、3月23日発表の「特別損失の計上及び過年度業績への影響、並びに平成22年2月期業績予想の修正に関するお知らせ」をご覧下さい)
この度第三者委員会の調査が終了し、本日(平成22年4月12日)最終報告書が提出されました。


2、第三者委員会による最終報告
報告内容は下記(「第三者委員会報告」)をご覧下さい。全文を公表させていただいております。

<第三者委員会のメンバー>

委員長 高野 利雄 (弁護士、高野法律事務所所長)〔元名古屋高等検察庁検事長〕
  政木 道夫 (弁護士、シティユーワ法律事務所パートナー)
  高岡 俊文 (公認会計士、株式会社KPMG FAS 執行役員パートナー)

 

3、再発防止策
ローソンならびにLEMは二度と不正行為を起こさせないとの重大な決意を持って下記の再発防止策を確実に実施してまいります。

(1) 緊急的対応策
    LEMは、資金の不正流出が判明した後、下記の緊急防止策を実施いたしました。
    権限集中の解消
          一部門や担当役員への権限集中が不正行為を可能にした要因であったため、権限の分散化を図りました。具体的には、管理本部を財務経理本部・総務本部・内部監査室・経営企画室の4つに分けそれぞれに個別の責任者を置き、部門間に牽制機能を持たせました。
    支払い業務の監視強化
          前払い金等通常取引と異なる支払いに関しては、財務経理本部に加え総務本部においても支払申請書をチェックする体制を新たに構築いたしました。
(2) 抜本的対応策
    LEMは、今回の第三者委員会最終報告を受け、下記の抜本的対応策を実施してまいります。
    法令遵守の徹底について
          トッ プ自らが再発防止の意思を明示しこれを徹底してまいります。従来より実施していた全役職員を対象としたコンプライアンス研修を継続、強化し、法令遵守意識 を徹底します。また、法令遵守意識の浸透度を検証するため、全役職員に対する意識調査を本年度より開始、以降年一回定期的に実施します。
    取引でのリスクの認識と防止
          取引先や取引に関連するリスクを洗い出すとともに、その防止策を業務マニュアルに反映させ、全役職員への周知徹底を図ってまいります。これらの対応を、今年度上期までに実施いたします。
    個人業務から組織的業務への変換
          個人のつながりが重要視されることが業界内の特徴であり、業務の属人化が進む傾向にあります。より組織的な業務に移行するため、組織内での個人業務の見える化及び定期的な人事ローテーションを今年度上期より進めてまいります。
    営業部門に対する管理強化
          取引先の信用調査や取引内容の定期的な調査は現在総務法務部や財務経理部で実施していますが、今後中期的には、組織拡大に伴い営業部門における管理機能を強化し、当該部門内において統制機能を持たせていく予定です。
    監査機能の強化
          緊急的対策として実施した内部監査室の設置にあわせ、内部監査専任の担当者を2名に増員しており、会社に内在するリスクを網羅的に検証できる体制としました。
今後、業務を可視化し継続的かつ効果的なモニタリングを実行するため、財務会計システムを含めたシステム全般の再構築を進めてまいります。
   

内部通報制度の活性化
          内部通報制度の積極的な利用の促進策を、コンプライアンス研修等を通じて社内に告知していますが、今後朝礼や社内報等を通じて経営者自ら訴えかけることを速やかに実施します。
    再発防止策の実施状況のモニタリング
          上記、各対応策について、その実施状況のモニタリングを徹底します。
具体的には、再発防止策の進捗部署をリスク管理・コンプライアンス委員会とし、モニタリング結果を取締役会に報告する体制といたします。
(3) ローソングループ全体での対応策
    ローソンは、本件が判明した時点で緊急措置としてグループ各社(株式会社九九プラス、株式会社ローソン・エイティエム・ネットワークス)の経理内容を点検 し、他に不正流用がないことを確認しました。また、LEMで発生した不正行為の原因(権限の集中、リスク認識の不足)をもとに、グループ各社のリスク管理 状況を点検し、同様の問題がないことを確認しました。今後もローソングループ全体で再発防止に向けてリスク管理を徹底してまいります。
    権限の分散化
          部門間の内部牽制を阻害する部門責任者の兼務がないことを確認しました
          支払手続のダブルチェック体制を確認しました
          今後、上記体制のモニタリングを強化してまいります
    リスク管理体制の強化
          グループ各社にリスク管理、コンプライアンスを統括する委員会を設置しており、親会社であるローソンのコンプライアンス・リスク統括室と連動し、リスク管理を徹底してまいります。


4、今後の予定
ローソンおよびLEMは4月14日(水)に平成22年2月期決算短信および過去の業績に関する訂正を開示する予定です。

以上




第三者委員会報告

第一 第三者委員会設置と目的 
  第三者委員会(以下「本委員会」という。)は,株式会社ローソンエンターメディア(以下「LEM」という。)から要請を受け,LEM代表取締役専務Y(以下単に「Y」という。なお,代表取締役に就任したのは平成21年5月である。),同社取締役K(以下単に「K」という。)らが株式会社プレジール(以下「P社」という。)との取引に関し多額の会社資金を社外に流出させた問題に関し(以下「本件問題」という。),【1】本件問題の発生の経緯・原因及び責任についての評価,【2】本件問題の法的評価,【3】本件問題に対する改善策の提言などを取りまとめることを目的として設置された。本委員会は,弁護士 高野利雄を委員長,弁護士 政木道夫,公認会計士 高岡俊文を委員として構成されている。
なお,本委員会は,上記のとおり,LEMからの要請に基づき設置されたものであるが,同社の意思からは独立して調査・報告を行うことが可能な体制となっている。
 
第二 本件調査と実施結果 
  本件は,Y,Kの両取締役が主導し,P社との取引にともなって約79億円をP社や興行主に支払うなどし,今後,総額で約144億円の損害をLEMに与えかねない事案である。したがって,本件はY,K両名による不正経理処理問題であり,LEMによる会社としての組織的な不正行為ではない。
調査結果によれば,YがLEMの業績拡大を企図しつつもP社及び自己の利得を図る目的を持って後述のP社スキームを始めた上,P社から興行主への支払が滞るや,Kとともに,取締役の善管注意義務に反し,取締役会の決議を経ることなく,P社の債務を代位弁済し,あるいは前払金名目でP社に会社資金を流出したというのが実態であったと認められる。両名をしてかかる所為を可能にさせた主たる原因は,LEMにおいて不正行為防止のためのリスク管理体制は構築されていたといえるものの,日常の業務が,Yの営業力やKの財務担当能力に過度に依存した体制であったため,両名に対するチェックが十分に行われなかったことにあったといえる。なお,Y,Kによる本件不正経理処理以外に,Y,Kその他の会社関係者による不正行為など,問題とすべきものは認められなかった。
LEMは,本件問題の発生を深刻に受け止め,直ちにY,Kを辞任させるとともに,後述の緊急再発防止策として,役員個人に権限が集中する体制を排除するとともに,多額の資金が不正に社外流出することを防ぐための種々のチェック体制を実施しているが,これは効果的な方策であったと評価できる。
 
第三 本件問題の事実関係 
  1 本件問題の発覚の端緒 
    Y及びKが,平成22年1月24日,P社の資金繰りが回復する見込みがないことを悟り,当時のLEM社長H(平成21年5月就任。以下「H社長」という。)らに本件概要を報告したことにより,発覚に至った。
  2 P社との取引経緯 
    (1) Tは,平成13年9月にP社を設立して代表取締役に就任し,同社において物品販売,プロダクション業などをしていたが,その後,写真付き切手(後に「フレーム切手」に変更。)等の製作・販売に乗り出し,カタログ冊子を発行して写真付き切手等の販売を行うようになった。Yは,平成12年ころ,仕事の関係でTと知り合い,TがP社を設立した当初からLEMとP社との間で物品販売契約を締結し,また,平成17年6月からは,LEMをしてカタログ冊子の事業に参画させたりしたが,いずれも成功しなかった。
    (2) LEMは,興行主から委託を受けてチケット販売を行っていたが,チケット代金は,支払サイトの関係で数か月間にわたりLEMに滞留することがあった。Yは,平成19年夏ころから,T及びP社取締役Iから,LEMに滞留するチケット代金を投資に使うことを持ちかけられ,やがて,同人らとともに,【1】LEMが興行主からチケット販売の委託を受けるに当たり,LEMと興行主の間にP社を入れ,LEMがP社にチケット代金を支払い,その後にP社が興行主に支払うこととし,その代わり,興行主へ支払う協賛金をP社が拠出する(以下「P社スキーム」という。),【2】P社は,支払を受けたチケット代金をIが行う投資に回し月額5~6パーセントで運用する,【3】P社は,その運用益で協賛金を賄い,運用益の残りはY及びT,Iで分配するという仕組みを考えた。
Y及びT,Iは,このような投資を2年くらい行い,最終的に残った資金を3人で分配することとしていた。しかし,Yは,Iから,「運用途中であっても言ってくれれば利益を分配する」旨言われたことから,P社スキームが実際に開始された以降,平成19年11月ころから平成21年9月ころまでの間,複数回にわたって現金をIから受け取っており,その合計金額は9000万円を超えるものと思われる。
    (3) Yは,平成19年9月ころ,LEMの常勤取締役,監査役らが出席する販売戦略会議において,人気グループのコンサートにつきP社スキームで取引を行うことを上程した。Yは,販売戦略会議で,P社スキームにつき,LEMにとっては,P社の協賛金拠出により協賛金負担を軽減することができる利点があり,他方,P社にとっては,A:フレーム切手販売等の事業をしているところ,チケット代金の支払を通すことによりP社の売上高を大きくすることができ,P社の取引先に対する信用向上を図ることができる,B:コンサート会場でのフレーム切手の販売等を促進することができるなどの利点があるなどと説明した。しかし,P社に滞留するチケット代金で投資を行うことなどについては説明しなかった。このため,販売戦略会議は,LEMの収益性や販促活動についての議論をしたものの,P社の財務状況や協賛金原資の確認等について協議を行うことなく,同年10月,P社スキームを行うことを承認し,Yはこれを実行した。
その後,Yは,他のコンサートでもP社スキームを用いるようになり,そのうち何度かは販売戦略会議に上程されて承認されている。
    (4) 他方,T及びIは,平成19年11月ころ以降,LEMからP社にチケット代金の支払を受けると,Iが設立したA社等に社債購入名目等で資金を移動し,投資を行うなどしていたものと思われる。
  3 平成20年10月31日に興行主B社に総額約23億円を代位弁済した経緯
    (1) Yは,同年10月下旬,T及びIから,同月31日に支払期限が到来する興行主B社へのチケット代金及び協賛金合計約23億円について支払期限を2か月程度延期してほしいとの要請を受け,同月29日ころ,同人らとともにB社を訪れ,担当者にその旨申し入れた。ところが,翌30日午後,B社役員からYに電話があり,上記約23億円を10月中に支払わなければ今後は一切取引しないなどと言われ,支払を強く求められた。Yは,T及びIと相談したものの,P社において期日までに支払うことが不可能であると考え,同日夜,Kに電話をかけ,「10月中にB社に支払う約23億円をP社が支払えないので,なんとかならないか」 旨相談した。
Kは,期限までに支払ができなければ大口取引先であるB社を失ってしまうとともに,P社スキームがうまく機能していないことが業界に 知られることとなり,P社スキームを行っている他興行主からもチケット代金等の即時決済を要求されてLEMの経営にも影響を及ぼしかねないなどと考え,これらの事態を回避するため,Yとも相談して,LEMがB社に直接支払うことを考えた。また,Kは,その当時のLEM社長N(平成21年5月退任。以下「N社長」という。)にもその旨報告して了解を得たものと思われる。
Yは,翌31日,B社役員と面談して謝罪し,まずチケット代金を支払い,その後に協賛金を支払うことで了解を得た。その後,Kが,B社担当者と支払方法を打ち合わせた上,経理担当者に指示して,LEMからB社に約20億円を支払った。さらに,Kは,同年11月4日,同様にしてB社に約2億円を支払った。
B社に対する上記支払について,法的にはLEMが支払義務を負うものではないことは,N社長,Y及びKは認識していた。上記支払行為は,LEMの新たな債務負担行為であるため,決裁権限基準表の「200百万円以上の貸付・第三者債務保証」に該当し,取締役会決議事項であった。しかし,上記3名は,上記支払について取締役会決議を得ていないばかりか,Y,K及びN社長以外の取締役には報告もしていなかった。この間の事情については,N社長及びKは,「時間もなく差し迫っていたため,思い至らなかった」と述べるのみであり,理解しがたい言動というほかない。また,Kは,これら支払の経理処理について,本来P社に対する貸付金として処理すべきであったのに,営業未払金のマイナス残として処理させた。財務・経理担当者は,Kの指示であるため,何の疑念も持たずに上記指示に従って上記処理をした。Kは,この会計処理について,「P社に対する貸付金残高が会計監査人や親会社であるローソンにより発見されることを免れようとする意図がなかったとはいえない」としている。
なお,Yについては,B社への支払を行うに当たり,上記の経緯で始めたP社スキームであったことから,これを壊すことを躊躇した事情があったことは容易に考えられるところである。他方,Kは,同年10月31日,LEMにおいてT及びIと会った際,P社がチケット代金をグループ会社の投資に流用した旨説明を受け,初めてP社がチケット代金を投資に流用していたことを知ったものと思われる。
Kは,同年11月18日,T,Iとともに渋谷公証役場に赴き,LEMが代位弁済した合計約23億円につき,P社を主債務者,T,I及びIの会社であるC社を連帯保証人とし,同年12月中に全額返済する旨の債務弁済契約公正証書を作成した。
    (2) Kは,同年11月から平成21年2月にかけて,P社の資金繰りと興行主への支払期日等を勘案しながらLEMからP社への支払金額を調整し,その一部の支払を留保していた。しかし,その後,興行主へ支払う資金が不足したことからLEMの支払を再開し,結局,支払留保による回収はできなかった。
    (3) 他方,Kは,このような状況にあることをN社長には報告していなかった。N社長も,同年11月以降,代位弁済した資金の回収状況について「大丈夫か」と聞く程度で具体的な報告を求めず,Kに任せきりにしていた。
    (4) Tは,P社スキーム開始当初から,Iとともにチケット代金を投資に流用していたが,約23億円の支払遅延をきたし,これにつき債務弁済契約公正証書を作成して個人として連帯保証をするに至ったことから,Iと袂を分かち,同年11月28日付けでP社取締役を辞任し,以後は別に設立していた会社の代表取締役として活動するようになった。この後,Tは,平成22年1月まで,Yとの連絡を断っていたものと思われる。
Iは,平成20年11月28日付けでP社代表取締役に就任し,引き続きP社スキームを行っていた。
  4 平成21年10月から同年12月までの間にP社に総額46億円を支払った経緯
    Yは,同年8月末ころ,Iから,同月末のB社その他興行主への支払ができないとの連絡を受け,これらの興行主に10日ないし2週間程度の期限延長を要請し,了承を得た。しかし,P社では延長した期限内に支払資金を手当てする見込みがなかったことから,Yは,Kと相談し,P社スキームを維持するため,LEMからP社に資金を貸し付けてP社から興行主への支払を続けようと考えた。Y及びKは,P社において興行前に前払を行うための「前払い精算」という手続を利用しようと考え,チケット営業担当者から興行の情報を得て,これを利用して前払の申請があったように装う方法により,同年10月から同年12月までの間,合計約46億円をP社に支払った。この支払は,LEMの決裁権限基準表上,営業保証金の差入れ又は貸付・第三債務者保証に該当することから,取締役会決議事項であったが,ここでも取締役会決議はなされておらず,Y及びK以外の取締役には報告もされていなかった。
上記手続に関与したチケット営業担当者,財務・経理担当者らは,上司であるY及びKの指示であったため,特段の疑念を持たないまま実務処理を行っていた。
Iは,このようにしてLEMからP社に支払われた資金を使ってP社から興行主にチケット代金等を支払っていたが,一部については他の支払に流用したものと思われる。
なお,平成21年5月に就任したH社長は,同年9月,一部の興行主からP社がチケット代金を支払わない旨連絡を受け,Y及びKに事情を問いただしているが,両名は,ここでもこれまでの経緯について報告していなかった。Y及びKは,その理由について,新社長をこの問題に巻き込みたくなかったからとしている。
  5 平成21年12月から平成22年1月までの間に興行主に総額約11億円をP社に代わり弁済した経緯
    Kは,P社スキームを維持するために前払い精算を利用してP社に資金を貸し付けていたが,支払期限が逼迫してP社経由では支払が間に合わない虞があった場合などには,LEMから興行主に直接チケット代金を支払っていた。こうした直接支払は,平成21年12月から平成22年1月までの間,合計約11億円である。
  6 会計処理
    P社に関する代位弁済により発生した未収入金及び前払金については,すべて営業未払金のマイナスで処理されており,未収入金や貸付金等の資産としては計上されていない。また,これらの未収入金,前払金についての回収可能性は検討しておらず,貸倒引当金の計上が行われていない。Kは,このような会計処理につき,会計監査人や親会社であるローソンにより発見されることを免れようとする意図がなかったとはいえないとしていることは,前述のとおりである。
LEM,P社及び興行主間の当初の三者間契約には,P社がチケット代金を支払わない場合にLEMがこれを負担する旨の条項はない。しかし,平成21年8月以降,P社の資金繰りが悪化し,興行主への代金支払が遅延することが多くなったため,一部の興行主は,P社の支払能力にリスクを感じ,LEMに対し,P社の債務保証を要請するようになった。Yは,これを承諾して,一部の興行主との間で債務保証契約を締結している。この債務保証契約の締結に当たっては,本来であれば,決裁権限基準表に則って取締役会の決議を経た上で実行されるべきであったが,Yは,これをすることなく独断で実行していた。また,これらの債務保証は,財務諸表に注記等として開示する必要があったが,四半期決算で開示はされていない。
  7 その他
    Yは,平成19年11月ころから平成21年9月ころまでの間,数回にわたり,合計で9000万円を超える現金をIから受け取り,個人的に費消した。その使途先は,住宅ローンの繰上返済,リゾート会員権の購入,投資,貸付け,交際費などと思われる。
 
第四 本件の発生原因について
  本件は,LEMの権限・職責が集中していた取締役のY,K両名が起こした不正経理処理問題であるため,LEMが構築していた不正防止のためのリスク管理体制では,ある意味で防ぎようのない事案であったといえる。その事実を前提に本件発生の要因を分析する。
    1 LEMを取り巻く外部環境
      本件発生の要因は,LEMが属する業界の特殊な商慣習取引が根底にあり,そのために早期に発見されなかった側面もあると考えられる。ここでは,そのようなLEMを取り巻く外部環境に焦点を当てて本件の原因分析をする。
        (1) 協賛金の多寡による競争原理
            エンタテインメント業界においては,興行主は,多額の協賛金支払の申出をするチケット業者に集客力が大きい興行のチケット販売を委託する傾向があるため,いかに多くの協賛金を支払うかが営業の要の一つとなっている。このような背景から,LEMの役職員の多くが,P社が多額の協賛金を負担するというYの説明に傾注し,そのため,本件スキームに内在するリスクに対する感度が鈍ってしまったと考えられる。これが,結果として長期にわたり不正経理処理が発覚しなかった一つの原因になっていると考えられる。
        (2) エンタテインメント業界における商慣習の特殊性
            エンタテインメント業界においては,個人的な人脈が重視されることが多いため,個々の取引を開始するに際し,必ずしも契約書の取り交しを行わない傾向にあったと考えられる。また,Yは,エンタテインメント業界に幅広く人脈を有していたため,P社スキームにおいて,P社の興行主に対する債務の履行が滞る場合にも,担当者への口添えで支払を猶予してもらったことが度々あったと考えられる。このことも,Yらによる不正経理処理が長期間にわたって発覚しなかった一つの原因となっていると思われる。
    2 全社統制に関連する問題点
      本件は,営業部門と管理部門に大きな権限を有していたKとYによって行われた不正経理処理であるため,内部統制システム上の限界を感ぜざるを得ない事案であるが,なお以下の問題を指摘することができる。
        (1) 組織体系の問題
            Yは,本件発覚時においては,ライブ・エンタテインメント事業本部長として営業全般にわたり大きな権限を有し,Kは,管理本部長として財務経理部・経営企画部・総務法務部,更に人事企画室を兼務しており,営業以外の殆どすべての管理業務の権限を有していた。本件発生の最大の問題は,Y及びKへの権限集中にあった。そのため,ほしいままに立替払や営業保証金の支払が実行でき,かつその事実を隠ぺいすることも可能であった。また,Y及びKがそれぞれの場面において巧みに問題を糊塗する説明をしたことにより,他の役員や従業員は,P社やP社の取引に関する正確な情報を知り得ない状況になっていた。
        (2) 中間業者に対するリスク認識の問題
            LEMの通常のビジネスでは,受託したチケット代金を興行主に支払うという取引の流れを前提としており,原則として,同一の興行に関する取引について,受託したチケット代金以上の金額を前払することはない。したがって,通常の取引を前提とすれば,興行主に対して与信リスクを考慮する必要がない。また,中間業者が取引に入る場合であっても,興行主側が自らの関係先等を中間業者として指定するので,LEMが与信リスクを負うことはなかったといえる。
しかしながら, P社は,LEMが中間業者として取引に入れた会社であったため,興行主との間では,債務保証契約がなかったとしても,LEM側がP社の債務の履行を事実上担保することを興行主に期待させる事由があったと考えられる。このような背景からすれば,P社はLEMにとって通常の取引先よりも高いリスクを有する業者であったというべきである。しかしながら,LEM役職員の多くがこの点に思いが至らなかったと思われ,このことが,以下のような問題の発生に結びついたものと考えられる。
              (ア) 取引継続の判断の問題
                  平成20年10月及び11月においてB社に対して立替支払を行ったが,その後も従前と変わりなくP社との取引を継続している。P社の興行主に対する債務不履行が発覚したのであるから,P社との取引リスクを検討し,取引の縮小や停止を図るべきものであったと考えられる。しかるに,Y,Kばかりでなく,当時の代表取締役であったN社長においても,上記措置を講ずることなく,P社取引を漫然と継続している。さらに,N社長は,その後の回収状況についても,継続的な確認作業を怠る等取締役としての善管注意義務を果たしたとはいえない対応をしている。
              (イ) 取締役会上程案件の問題
                  P社スキームは,上記のとおり,リスクを孕むものであったので,本来は取締役会に上程すべき案件であったが,これまでの取引の実情から,下部の会議体である経営会議や販売戦略会議等で議論がなされていた。
経営会議では,P社案件についてスキーム自体の経済的合理性について質疑が行われているが,これに内在するリスクという観点から協議を行うことはなかった。
また,販売戦略会議では,一部のP社案件取引について,当該興行の収益性に対する質疑がなされ,これに関する詳細な試算がなされていないなどの理由で議案を承認せず再上程としている議案があったが,ここでもリスクに関する検討は行われていなかった。
              (ウ) 監査役会の業務執行の監督体制の問題
                  LEMの監査役会において,P社に対する前払や関連する代位弁済について指摘された事実はない。平成21年5月に就任した常勤監査役は,前払処理に係る申請書類を確認した際,P社への前払申請書が多数あったことから,P社がどのような取引先かYに尋ねたが,特段の疑念を持っていたわけではなかったため,同人の説明を受けて了解している。監査役がLEMのビジネスに関するリスク認識を有していれば,更に徹底的な調査を行うことができた可能性はあったのではないかとも思われるが,後記の内部監査部門の脆弱性を考えると,監査役にこれを期待することは酷ともいえる。
              (エ) 内部監査部門の整備体制及び実効性の問題
                  本件当時の内部監査部門は総務部従業員1名の兼任であり,内部監査活動も定期的かつ計画的には行われていなかった。
平成22年2月期からは,専任1名兼任1名の体制となり,内部監査計画に基づき地区オフィスを中心として内部監査活動を行っていたが,Yが所属する本部地区の営業部に関しては,P社スキームが開始されて以来一度も内部監査が実施されなかった。また,内部監査の内容は,会計以外の業務監査が中心となっていたため,P社関連の取引の合理性や,P社に対する前払及び関連する立替支払などが監査計画に組み込まれる予定はなかった。
なお,本件当時,内部監査業務は管理本部総務法務部の所管であり,管理本部長であるKの管理下に属していた。したがって,仮に内部監査において取引の異常性を発見したとしても,それを不適切な行為として全社的に明らかにするのは,極めて困難であったと思料される。
        (3) 会計数値の分析の問題
            取締役会では,経営概要で財務の主要増減理由の報告及び資金の運用実績報告がされるが,いずれも定型的な資料に基づいて,前期末残高との比較分析等の説明が行われるのみで,長期的分析,あるいは財務諸表全体をベースとした比率分析等に基づく説明は行われていなかった。
本件立替支払及び実質的な営業保証金となる前払金の支払が行われた時期に現金預金及び営業未払金が大きく減少し,運用資金も一時的に大きく減少するとともに,営業債権が営業債務を超過するなど,財務状況の歪みも生じているが,分析書面上は他の月と同様の増減理由が記載されているのみである。ここでも,財務責任者のKから問題を糊塗した説明がなされたため,取締役会において,その中身に踏み込んだ質疑が行われた形跡はない。
        (4) 内部通報制度の問題
            LEMには内部通報制度が存在しているところ,本件不正経理処理については,内部通報の事実はない。これは,内部通報制度の趣旨や運用方法の周知不徹底というより,LEMにおけるY及びKの実績と存在感が大きかったため,従業員においてY及びKの日常業務に不信を抱く余地がなかったというのが実態であったと思われる。
 
第五 本件問題に関する関係者の法的責任の有無について
  1 刑事責任について
    刑事責任の有無を検討すべき対象者は,LEMにおいてはY及びK,P社においてはT及びIの4名である。
Yは,T及びIとともに,P社においてチケット代金を投資で運用し,その運用益で協賛金を捻出するとともに残りを3名で分配する意図でいながら,LEMの他の役員に対してはこの情を秘し,あたかもP社が自己資金等で協賛金を拠出するかのように偽ってP社スキームの承認を取り付けてこれを開始し,LEMをしてチケット代金相当額をP社に交付させていた。たとえ,Yが,P社スキームを行うことでLEMの業績拡大を図る目的があったとしても,その一方で,P社や自己の利得を意図していたものであり,その結果,LEMに多大の損害を与えているのであるから,特別背任罪成立の可能性は大きいと考えられる。
T及びIについても,Yの身分なき共犯として特別背任罪が成立する可能性があろう。
Kについては,P社スキームが開始された当初はYの真意を知らなかったものと思われるが,平成20年10月31日以降は,P社においてチケット代金相当額を投資に流用していた事実を認識し,また,同日及び同年11月4日には必要な社内手続を採らずにLEMから合計約23億円の代位弁済を行った上,その後も新規のP社スキームによるチケット代金相当額の支払や,平成21年9月以降の前払処理を続けているので,Yの共犯として特別背任罪の成立について検討が必要であろう。
  2 民事責任について
    民事責任の有無を検討すべき対象者は,LEMにおいてはY及びKのほか,N社長,H社長,その他の取締役,P社関係者においてはT及びIと思われる。
      (1) Yについて
          Yは,P社スキームを使った投資をT及びIとともに考案し,P社スキームの実態をLEMに秘して取引を開始した上,P社が興行主への支払遅滞の事態を生じるや,Kを巻き込んで必要な社内手続を採らずに代位弁済を行わせ,その後もP社スキームの取引を続け,前払処理を装ってLEMから資金を流出させるなどしていたものであり,取締役としての任務懈怠が認められる。したがって,LEMに発生した損害につき,取締役の善管注意義務違反に基づく損害賠償責任及び不法行為責任に基づく損害賠償責任を負うものと考えられる。
      (2) Kについて
          Kは,平成20年10月及び同年11月の代位弁済について,N社長に報告しているものの必要な社内手続を採っておらず,また,平成21年9月以降の前払処理についてはYと相談して独断で実行したものであること,それらにつき他の取締役等に発覚しにくいような経理処理を指示していることなど,取締役としての任務懈怠が認められる。したがって,LEMに発生した損害につき,取締役の善管注意義務違反に基づく損害賠償責任及び不法行為責任に基づく損害賠償責任を負うものと考えられる。
      (3) N社長について
          N社長は,平成20年10月下旬にP社においてB社へのチケット代金支払ができなくなった際,その旨Kから報告を受け,必要な社内手続を採らずに代位弁済することを承諾している。また,N社長は,代位弁済を契機としてP社とのその後の取引について注視し,必要な報告を詳細に上げさせ,P社スキームの見直しを含めて対処すべきであったが,それも怠っていたものといわざるを得ない。N社長には,これらの点について取締役としての任務懈怠が認められるので,LEMに発生した損害につき,取締役の善管注意義務違反に基づく損害賠償責任について検討すべきものと思われる。
      (4) H社長について
          H社長は,平成20年9月ころにマーケティング本部長としてLEMに赴任したが,取締役に就任したのは,平成21年5月にLEM代表取締役社長に就任したときが最初であるので,H社長の取締役としての責任は,同年5月以降のものである。H社長は,平成20年10月及び同年11月の代位弁済についてN社長から知らされておらず,また,P社スキームに特段の問題があるとの指摘も受けていなかった。H社長について検討すべきは,他の取締役・使用人に対する監視監督義務違反を中心とする不作為による任務懈怠の有無ということになる。
上記のとおり,LEMは,不正行為防止のためのリスク管理体制が構築されているところ,本件は,Y,K両取締役がその権限を乱用して通常では想定しにくい方法によって敢行した不正行為であり,両名が結託して不正を働いていた以上,これを見破ることは容易ではなかったものと考えられる。したがって,H社長に取締役の善管注意義務違反を問うことには問題があると考える。
      (5) その他の取締役について
          LEMのその他の取締役は,H社長と同様に,P社スキームに関連し,代位弁済や前払処理が行われていたことを平成22年1月まで知らされていなかったので,検討すべきなのは,他の取締役・使用人に対する監視監督義務違反を中心とする不作為による任務懈怠の有無ということになるが,H社長と同様,取締役の善管注意義務違反を問うのは問題があると考える。
      (6) T及びIについて
          T及びIについては,P社スキームを使った投資をYとともに考案して実行していたもので,その結果,LEMに損害を与えていることから,不法行為責任に基づく損害賠償責任を負うものと考えられる。
 
第六 本件問題に対する再発防止策について
一 緊急的対応策について
    1 権限集中の解消
      本件では,営業部門と管理部門の権限が集中していたY,Kによって不正経理処理が行われ,特に,管理部門については,Kが総務・法務・財務経理等の管理に関 る主要な機能について横断的な権限を有していた。そのため,LEMは,本件発覚後に以下の対応を行い,牽制機能の充実を図った。
        従前の管理本部を解体し,財務経理本部・総務本部・経営企画室を設置するとともに,それぞれに権限を付与した
        独立の立場からの監査の充実を図るため,社長直轄の内部監査室を新設した
    2 各種合議体の議案提出に関する統制
   
本件で問題となった立替支払や実質的に営業保証金となる前払金支払は,いずれも取締役会決議事項であるにもかかわらず,議案が上程されていない。決裁権限基準表においては,取締役会を始め各会議体の上程事項が規定されているが,当該上程事項の適切性,網羅性の確認が十分には機能していなかったため,その実施体制を整えた。
    3 取引開始時・継続時における承認手続
      取引金額の大きな取引や変則的な商流の取引等については,取引当初又は取引途中においても,取締役会や販売戦略会議等の会議体において取引リスクの厳格な検討を行ったうえ,正式決議を実施する体制を整えている。今後は,外部機関による取引先の信用調査を行うことについて検討する予定である。
    4 支払条件の見直し
      興行終了前の支払はLEMが与信リスクを負うことになるので,支払は原則として興行締めにて行うこととした。例外的に月締めによる支払いを行う場合は,決裁権限基準表に則って販売戦略会議の決議と上長の承認を必要とするほか,更に総務本部において支払を承認する体制を新たに構築した。
    5 前払金に係る業務処理統制
      前払金の支払時には,既にチケット販売が開始された興行に関するものであり,かつ既に販売済みの金額以内の前払であることを総務本部においてチェックする体制を構築している。
    6 支払時の承認手続
      残高システムの営業未払金台帳上の興行コードごとの管理が適切に実施できるよう,以下の運用を開始した。
        残高システムにおける興行コードごとの支払が適切に行われていることを総務本部にて確認する
        支払先変更処理についても総務本部の承認を必要とする
    7 会計数値の分析
      取締役会等において財務諸表の適正な分析を可能にするため,財務諸表の1科目ずつの増減分析だけでなく,財務諸表全体の数値から,流動比率・固定比率等,LEMの財務状況を理解するために適切と考えられる比率を算定し,長期的な視点も取り入れた上で比較分析を行い,取締役会等へ報告することとしている。
  二 抜本的対応策の提言
    LEMが,今回の問題を教訓として,株主を始めとするステークホルダーの信頼を得て,再出発するためには,上記緊急的対応策に加えて,以下の施策を更に推進していくことが肝要である。
      1 法令遵守の徹底について
        (1) トップマネジメントによる再発防止意思の明示
            本件においては,Yは個人的利得を得る目的で不正に関与しているが,K及びN社長は,主として取引先や商流等を守る目的で不正な経理処理に関与あるいは黙認したものと考えられる。このような行動に至る根源的な原因は,取引先や商流等を守るためには,不正な経理処理を行うことも止むを得ないという自己正当化の意識があったのではないかと思われる。
LEMは,これまでもコンプライアンス重視の経営方針をとってきたが,現実に本件を惹起したことを重く受けとめ,二度と不正事案を起させないためには,LEMのトップ自らが各役職員に対し,「法令違反を犯し,あるいは内部規程を破ってまで仕事を取ったり,業績を上げたりしようとするな。再び社会から指弾を浴びる事態を起こしたときには会社は潰れる」という明確な意思を宣言し,これを徹底することが極めて重要である。
LEMは,従前から「コンプライアンスハンドブック」を全役職員に配布し,毎週全体朝礼を行い,役職員に対して経営者のメッセージを直接伝えているが,さらに,今後はWEBサイト上にコンプライアンスに関する事項を掲示し,社外に対して法令遵守の意思を明確に示すことも重要である。
        (2) 行動規範等における法令遵守の明示及び周知
            社内において法令遵守の意識を徹底させるためには,行動規範等に適切にその内容が含まれ,かつ研修等により役職員に対してこれを周知させることが望まれる。
現時点において,LEMは行動規範において法令遵守を規定し,全役職員を対象としてコンプライアンス研修を毎年実施している。さらに,今後はコンプライアンス研修の講師として,役員又は本部長,室長等がこれを行うことにより,トップマネジメントやそれに準ずる経営層の意識向上を図り,社内への啓発を促すことが肝要である。
        (3) 役職員による宣誓書の記載
            法令遵守の意識を役職員へ浸透させるためには,役職員からこれらの内容を記載した宣誓書の提出を求めることも有用と考えられるところ,LEMでは,本件発覚以前より,社内規程遵守を含む誓約書を全役職員から提出させている。
        (4) 懲罰規程の厳格な運用及び意識付け
            社内懲罰規程を適切に運用し,法令遵守を徹底するために,これらの内容を役職員に十分周知するとともに,規程違反等については懲罰規程に従って厳格な社内処分等を行うことが必要である。
        (5) 役職員の法令遵守に関する意識の浸透度合いの調査
            役職員への法令遵守意識を浸透させるためには,研修等による周知徹底の他,その浸透度を検証するために,ヒアリングやアンケート調査を実施することが望まれる。
LEMにおいては,次年度以降,役職員に対する意識調査を定期的(年1回)に実施する予定である。
      2 取引に内在するリスクの認識
        各役職員がビジネスリスクを的確に認識するためには,取引先や取引自体に関連するリスクについて,取引開始時,前払時,払戻時等に応じてこれを分析し,その内容を業務マニュアルに反映させるとともに,職務権限規程等の諸規程についても,そのリスク内容を反映させ,それぞれの内容を全役職員に研修等で周知し,その浸透度合いを定期的に検証することが望まれる。
      3 属人的業務への対応
        エンタテインメント業界においては,個人的な人脈が重視され,仕事も会社というより個人に付いて回ることが多いと考えられるため,業務の属人化が進み,関与していない他者からは取引実態が見えにくくなっている虞がある。
属人的な業務に関して,取締役が関わるものは,担当取締役が取締役会等において係属案件とその進行状況等を適宜報告し,また,従業員に係るものは,上長に適宜報告させるなど,全社的に情報を共有することを実行すべきである。
        (1) 部門間のコミュニケーションの促進
            LEMは,毎週全体朝礼を行うことにより,コミュニケーションの促進を図るとともに,リスク管理・コンプライアンス委員会,内部統制委員会等,組織を横断した委員会を設置している。また,部門横断による研修として,経営会議メンバーによる経営合宿,部長クラスによる上級管理職研修合宿を予定している。
        (2) 人事ローテーション
            これまでに起きた他社の問題事例を見ると,本人の実力に加え,諸般の社内事情により,同一人を長期間にわたって同じポストに据え置いた結果,上長を始めとして他者のチェックが利かない状況を作出し,それが不祥事の主要な原因となったものが多い。本件は,取締役による不正事案であるため次元を異にしているが,この際,従業員による不祥事を防ぐためには,定期的な人事ローテーションを実施することが望ましい。
LEMは,部署内のローテーションを定期的に実施し,仕事や顧客と従業員との繋がりを定期的に見直すとともに,現在,人手に依存している業務のシステム化を検討し,業務の属人化をできるだけ排除していくこととしている。
        (3) 属人的業務に係る集中的なモニタリング
            属人的な業務が発生しやすい部門(例えば営業部門)においては,上記に加え,管理機能を強化し,個人に紐付いている業務内容を定期的にモニタリングすることが望まれる。
LEMは,総務本部において,各部門における属人的な業務の洗い出しを行い,これらについて定期的なモニタリングを実施する。
      4 営業部門に対する管理強化
        営業部門において,時として生じやすい法令遵守を軽視した業績拡大をチェックするために,同部門に対する牽制機能を強化することが望まれる。
LEMは,現時点では営業部門における下記のような統制について,総務法務部や財務経理部が実施している。なお,中期的には,組織拡大に伴い,営業部門における管理機能を強化し,当該部門においても統制機能を持たせていく予定である。
          新規取引開始時や取引拡大時における取引先の調査
          各取引先との取引内容の定期的な確認(属人的業務のモニタリングを含む(上記第六,二3参照))
          各営業担当者による各種申請内容及び申請理由の確認
          前払い精算制度や営業保証金制度等の運用の適正性の確認
      5 監査機能の強化
        監査機能の強化に当たっては,監査の実施主体である監査役や内部監査人の上記第六,二2で述べたリスク認識の強化以外にも,会社に内在するリスクがどの箇所に存在しているのかについて,網羅的に検証する仕組みを導入することが望まれる。
そのため,LEMにおいては,財務会計システムを含めたシステム全般の再構築を進め,可視化を促進するとともに,コンピュータを利用した仕訳分析等を実施し,継続的なモニタリングを行うことを予定している。
      6 内部通報制度の実効性確保
        内部通報制度を有効に機能させることが望まれるところ,LEMは以下の施策を実施済み又は実施予定としている。
          内部通報時の通報先として,社内の総務法務部のほか,外部弁護士も設定している。また,ローソングループの社外相談窓口の利用も案内している。
          コンプライアンス研修において,内部通報制度の内容及びその積極的な活用に関する内容について説明している。
          内部通報制度のほか,役職員が気軽に悩み事を相談できるように健康保険組合を通じてメンタルヘルス相談窓口を設けている。
          朝礼や社内報などを通じて,経営者自らが内部通報制度の積極的な利用を訴えることを検討している。
          取引先に対して定期的にアンケートを実施し,LEMに何らかの不適切な行為等が発生していないかについて調査することを検討している。
      7 再発防止策の実施状況のモニタリング
        緊急的対応策及び抜本的対応策を策定しても,その後に実施状況の検証が行われない場合,これらが適切に実行されず,その結果,再度同様の不正が発生する虞がある。そのため,実施状況等の検証結果を取締役会等に定期的に報告させ,何らかの理由により遅延している場合や,実施手続が不十分である場合等は,適切な指導をすることが望まれる。
LEMは,再発防止策の進捗を管理する部署・責任を明確にし,進捗の確認にあたり,内部統制システム整備の基本方針の進捗に合わせて管理を行う予定である。また,内部監査部門が,これらの管理機能が適切に機能しているかどうかを監査する予定である。

 

 

以上






■添付資料■

第三者委員会による調査手続の内容
一 事実関係の調査について
  本件事実を確定するため,以下の関係者のヒアリングを実施するとともに,電子メール,関係財務諸表,会社伝票,契約書等の調査を実施した。その調査手続の内容は,以下のとおりである。
    1 関係者に対するヒアリング
      本件事実関係を確定するため,LEMの役職員等に対してヒアリングを実施した。ヒアリング対象者の選定は,本件について何らかの情報を有している者及び調査時点における部長クラス以上の者から行った。具体的な対象者は,以下のとおりである(肩書きは調査時点のものである。)。
        LEM関係
            Y,K,元代表取締役社長2名,元取締役1名,代表取締役社長,常勤監査役,財務経理本部本部長,マーケティング本部本部長,メディア・コマース事業本部 本部長,営業1部部長,同2部部長,同3部部長,事業企画部部長,営業管理部部長,営業1部副部長,財務経理部部長,財務経理部員1名,総務法務部部長
        P社関係
            元代表取締役社長2名
    2 関係者メールに関する調査
      (1) Yの電子メール
          Yが利用していたPC内に残存する電子メールを抽出,復元し,全件レビューを実施した。以下が抽出,復元したメールの概要である。
           

件数:

【1】送信済フォルダ   残存メール:160件   削除メール:16,386件

【2】受信済フォルダ   残存メール:374件   削除メール:6,964件

【3】削除済フォルダ   残存メール:9件     削除メール:21,168件

期間:平成21年1月26日から平成22年2月9日まで

            また,平成21年3月以降の期間について,社外送信メールのログについても調査を実施した。当該電子メールは,期間中のメール全件を確認する事ができ,文字化け,添付ファイルの破損なども発生していない。
            件数:2,365件
期間:平成21年3月19日から平成22年1月5日まで
      (2) Kの電子メール
          Kが利用していたPC内に残存する電子メールの抽出を試みたが,運用上の理由によりPC内には残っていなかった。そのため,グループウェアであるサイボウズに残存していた送受信メールのレビューを行った。以下が抽出,復元したメールの概要である。
          件数:1526件
期間:平成17年4月16日から平成22年1月27日まで
      (3) その他の関係者の電子メール
          Yのメールレビューから判断し,P社との取引に関して支払管理を行っていた営業1部員を含む,以下の役職員のメール及びPCデータ分析を実施した。
            ・役員 元代表取締役社長2名
・営業部門 3名
・財務経理部門 2名
 
二 損害額の検討
  1 Y氏及びK氏の供述に基づく損害金額の裏づけ調査
    LEMのP社スキームに関連して発生した代位弁済額計金額につき関連証憑の調査
    LEMの代位弁済額に対する一部返済金額につき会計伝票及び金融機関証憑の調査
    LEMの実質的な営業保証金となる前払金の支払金額につき関連証憑の調査
    LEMの中止興行払戻し未収債権につき関連証憑の調査。それ以外のP社案件興行の中止興行による払戻し未収債権が存在しないことの調査
    LEMのその他債権につき平成21年12月の帳簿上の各資産残高を試算。これらの債権額につき関連証憑の調査
    LEMが行った興行主のP社向け債権の残高確認につき漏れがないことの調査
  2 主体的関与者の供述以外の損害の有無の調査
    P社スキームの取引のうち,Yらの供述で明らかになった代位弁済以外の代位弁済発生の有無を確認(LEM営業担当者が作成したP社関連契約書集計表を閲覧し,P社に対する過去の支払実績等と照合)
      (1) P社以外の中間業者につき,P社と同様に貸倒れが生じるリスクのある債権の有無を確認(平成21年12月における興行主別営業未払金明細を調査し,P社と同様の多額のマイナス残高の有無を調査。多額のマイナス残高がある場合は,その回収可能性を調査)
      (2) P社以外の中間業者に関する取引で,将来,興行主から代位弁済を求められるリスクの有無を調査(平成21年10月から同年12月までのチケット販売データの初回取込時の「プロモーター別発券残高表」(精算システムデータ)のうち,チケット販売取引金額が大きい取引先について,取引金額の80パーセント程度をカバーできる範囲の取引先を抽出し,抽出対象全件につき,P社のような業務の実態が疑わしい取引先か否を営業担当者にヒアリングするなどして確認・調査)
 
三 P社及びグループ会社の資金の流れに関する調査
  平成20年10月から平成21年12月までのLEMの金融機関証憑及び総勘定元帳を入手し,P社スキームを行った興行につきチケット代金支払額及びチケット代金立替支払額を確認
  平成19年11月30日から平成22年1月8日までのP社及びP社グループ各社の預金通帳及び総勘定元帳を可能な限り入手し,入出金の相手先及び金額を把握することにより,LEMからの資金の流出先を調査
四 組織風土,全般統制,業務処理統制等に関する調査
  取締役会等LEMの会議体の議事録,直近の決裁権限基準表の調査(調査対象は,平成19年1月から平成22年1月までの取締役会(添付資料含む。),監査役会,経営会議,コミュニケーション会議,販売戦略会議の各議事録)
  平成19年1月から平成22年1月の監査計画及び報告資料等の調査(必要に応じて関係者のヒアリングを行い,P社取引についての監査役監査及び内部監査の実施状況を調査)
  直近の全社統制に係る関連資料の調査
  直近の内部通報・懲罰規程の調査
  P社に対する実質的な営業保証金の差入れとなる前払金の支払及び立替金支払につき,支払処理時の承認,支払実行等の関係者を証憑類にて調査
  P社取引に関連する業務フローの状況確認のため,LEM内部統制報告制度に係る業務フロー図,業務記述書及びリスクコントロールマトリックスの調査(一部につき,詳細な関連資料の調査,関係者ヒアリングの実施)
  従業員に対するアンケート調査(本件の情報入手等,本件以外の不正の有無,会社の内部統制・組織風土等の情報及び再発防止策の情報につき,全従業員を対象に実施)
      アンケート対象者
         

平成22年2月末現在の役職員304名

(内訳:役員4名,正社員161名,契約社員105名,アルバイト18名,出向者16名)

      アンケートの回収
          有効回答数は212通,回答率は約70パーセント