ニュースリリース

ローソンエンターメディア元取締役による不正行為への対応の進捗について

2010年3月11日

 株式会社ローソン(以下「ローソン」)と株式会社ローソンエンターメディア(以下「LEM」)は、平成22年2月9日に、LEM元取締役による多額資金の不正流用の事実、社内調査委員会による調査結果ならびに第三者委員会の発足を発表いたしました。ローソンとLEMは、緊急再発防止策の実施、業績修正、刑事告訴に向けた調整、および第三者委員会による事実関係の確認・調査、業務改善の検討を進めております。その進捗状況につき、下記の通り報告いたします。

 

1、 社内調査
    平成22年1月24日、不正行為発覚後直ちに、顧問弁護士事務所(アンダーソン・毛利・友常法律事務所)および会計事務所(株式会社 KPMG FAS)の協力のもと、ローソン代表取締役社長CEO新浪剛史を委員長とした合計21名から成る社内調査委員会を発足させ、2月9日にその調査 内容を発表いたしました。(詳しくは2月9日発表の「ローソンエンターメディア取締役による不正行為の発覚について」をご覧ください)
LEMは、2月9日の発表以降も被害予想金額の精査を行ってまいりました。現時点で判明している被害予想金額は2月9日発表時の最大150億円と変わりありません。
また、LEMの他の取引も調査した結果、不正な類似取引は見当たりませんでした。

 

2、 緊急再発防止策
    LEMは下記の対策を実施いたしました。
    1) 権限の分散
        一部門や担当役員への権限集中が不正行為を可能にした要因の一つであったため、権限の分散化を図りました。具体的には、管理本部を財務経理本部・総務本部・内部監査室・経営企画室の4つに分けそれぞれに個別の責任者を置き、部門間に牽制機能を持たせました。
    2) 支払い業務の監視強化
        社内の正式な決議を経ずに前払いや肩代わりしての支払いが行われたことから、資金が不正に流出していました。
ローソンはLEMに対し資金の流れを定期的にローソンに報告することを義務づけ、管理体制を強化いたしました。LEMは前払い金等通常取引と異なる支払いに関しては、財務経理本部に加え総務本部においても支払いを二重でチェックする体制を新たに構築いたしました。

 

3、 業績修正について
    ローソン及びLEMは、今回の資金不正流出が過年度業績および当期業績に与える影響を現在精査中です。会計監査人と協議を続けており、3月中を目処に公表いたします。

 

4、 刑事責任の追及
    3月4日にLEM元取締役2名について、東京地検特捜部に告訴状を提出し、ご相談しております。
ローソン及びLEMは当局に全面的に協力し、全貌解明に向けて鋭意努力してまいります。

 

5、 第三者委員会による中間報告
    LEM は平成22年2月9日付けで第三者委員会を発足させ、(1)今回の資金不正流出が発生した経緯・原因の検証および責任の評価、(2)今回の資金不正流出の 法的評価、(3)LEMの社内体制の問題点提起と再発防止策の提案を依頼いたしました。3月11日に第三者委員会により、中間報告書が提出されました。
    1) 第三者委員会のメンバー
       
委員長 高野 利雄 (弁護士、高野法律事務所所長)〔元名古屋高等検察庁検事長〕
  政木 道夫 (弁護士、シティユーワ法律事務所パートナー)
  高岡 俊文 (公認会計士、株式会社KPMG FAS 執行役員パートナー)
    2) 中間報告書の主な内容
      第三者委員会により関係者の聴取や関係書類等の再調査を実施した結果、社内調査委員会で調査し公表した不正行為の経緯と原因について、間違いがないことを確認
      関係者、特にLEM元取締役2名に関する刑事・民事責任の存在の可能性についての指摘
      LEMの社内体制の問題点への対応策
        (1)主要取引先に対する信用調査の検討
        (2)2名の元取締役に集中していた権限の分散
        (3)支払い業務に関するチェック体制の強化
        (4)取締役会、監査役、内部監査の監視体制強化
        (5)内部通報制度の活性化
        ※第三者委員会の中間報告書全文を別途添付しております

 

6、 今後のスケジュール
  ローソン及びLEMの業績修正については確定次第直ちに公表いたします。
  第三者委員会の最終報告書が3月末から4月初旬に提出される見込みです。第三者委員会の提案に基づき、一連の再発防止策を公表いたします。
  その他重要事項が発生した際には速やかに公表いたします。

以上

 

 

 

第三者委員会中間報告

 

第一 第三者委員会設置の目的
  第三者委員会(以下「本委員会」という。)は,株式会社ローソンエンターメディア(以下「LEM」という。)から要請を受け,LEM代表取締役専務(以下単に「取締役」ともいう。)Aらによる株式会社プレジール(以下「P社」と いう。)との取引に関し多額の会社資金を社外に流出させた問題について(以下「本件問題」という。),(1)本件問題の発生の経緯・原因及び責任についての評価,(2)本件問題の法的評価,(3)本件問題に対する改善策の提言などを取りまとめることを目的として設置された。本委員会は,弁護士 高野利雄を委員長,弁護士 政木道夫,公認会計士 高岡俊文を委員として構成されている。
なお,本委員会は,上記のとおり,LEMからの要請に基づき設置されたものであるが,同社の意思からは独立して調査・報告を行うことが可能な体制となっている。

 

第二 本件調査と実施結果
  本件は,LEM代表取締役専務A(営業担当)及びLEM取締役B(経理担当)が主導し,P社との取引にともなって総額約79億円をP社や興行主に支払うなどした事案であり,今後,LEMにおいて最大約150億円の損害が生じる可能性があるが,何故にこのようなことがなし得たのか容易には理解できないところである。それは,LEMの企業統治システムに問題があったのか,あるいは,A,B両取締役の個人的な資質に起因する問題があったのか,更には別の要因があったのかという点を中心に集中的に調査を実施した。
これまでの調査によれば,LEMの企業統治システム自体の問題というよりは,むしろ,AがLEMの業績拡大を企図しつつもP社及び自己の利得を図る目的を持って後述のP社スキームを始めた上,P社から興行主への支払が滞るや,Bとともに,取締役会の決議を経ることなく,P社の債務を代位弁済し,あるいは前払金名目でP社に会社資金を流出したというのが実態であったと認められる。両名をしてかかる所為を可能にさせた背景には,LEMの日常の業務が,Aの営業力やBの財務担当能力に過度に依存していたため,両名に対するチェック機能が十分には働なかったという事情があったといえる。
LEMが問題の発生を深刻に受け止め,直ちに社内調査を行い,その結果を踏まえて,両取締役を辞任させるとともに,後述の緊急再発防止策として役員個人に権限が集中する体制を排除し,何よりも,多額の資金が不正に社外流出することを防ぐための種々のチェック体制を直ちに実施したことは,一定の評価に値する。


第三 本件問題の事実関係
  1、 LEMは,興行主から委託を受けてチケット販売を行っていたが,チケット代金は,支払サイトの関係で数か月間程度LEMに滞留することがあった。Aは,2007年,P 社取締役2名から,滞留するチケット代金を投資に使うことをもちかけられ,同人らとともに,(1)LEMが興行主からチケット販売の委託を受けるに当たり,LEMと興行主の間にP社を入れ,LEMがP社にチケット代金を支払い,その後にP社が興行主に支払うこととし,その代わり,興行主へ支払う協賛金をP社が拠出する(以下「P社スキーム」という。),(2)P社は,支払を受けたチケット代金を高利回りで運用する投資に回し,その運用益で協賛金を賄うという仕組みを考えた。また,運用益の一部は,Aら3名で分配する意図であったものと思われる。
Aは,2007年10月から,LEMと興行主との取引でP社スキームを行っていたが,その開始に当たり,LEMの販売戦略会議において上記(2)を説明せず,協賛金はP社が協力会社から資金を獲得するなどして拠出するなどと虚偽の説明をして承認を得ていた。
  2、 P社は,2007年11月ころから,LEMから支払を受けたチケット代金を社債購入名目で別会社に移動するなどしており,同会社において投資に使うなどしていたものと思われる。
  3、 P社スキームは順調に進んでいるように見えたが,2008年10月下旬,Aは,P社取締役から,同月31日に支払期限が到来する興行主へのチケット代金及び協賛金合計約23億円が支払えない旨の連絡を受けた。Aから相談を受けたBは,期限に支払ができなければ当該興行主との取引を失うとともに,P社スキームが機能していないことが業界に知られることとなり,P社スキームを行っている他興行主からもチケット代金等の即時決済を要求されてLEMの経営にも影響を及ぼしかねないなどと考え,上記事態を回避するためLEMが興行主に直接支払うことを考えた。なお,Bは,LEM社長(当時。以下同じ。)にもその旨報告して了解を得たものと思われる。こうして,A及びBは,翌31日,LEMから興行主に約20億円を支払い,さらに,同年11月4日,同様にして興行主に約2億円を支払った。これらの支払は,LEMの決裁権限基準表上,取締役会決議事項であったが,取締役会決議を得ていないばかりか,A,B及び社長以外の取締役には報告もされていなかった。
なお,Bは,同年10月31日,P社取締役から,P社がチケット代金を別会社の投資に流用した旨説明を受け,初めて流用の事実を知ったものと思われる。
  4、 Bは,同年11月から2009年2月にかけて,P社の資金繰りと興行主への支払期日等を勘案しながらLEMからP社への支払金額を調整し,その一部の支払を留保していた。しかし,その後,P社において興行主へチケット代金等を支払う資金が不足したことからLEMの支払を再開した。なお,Bは,P社からの回収ができていないことを社長に報告していなかった。
他方,P社取締役のうち1名は,2008年10月に興行主への支払遅延の問題が生じたことを契機にP社を退き,同年12月ころにはP社スキームから離脱したものと思われる。
  5、 Aは,2009年8月末ころ,P社取締役から,同月末の興行主数社への支払ができないとの連絡を受け,若干の期限延長を興行主らに頼み込んだ上,その支払についてBに相談した。A及びBは,P社スキームを維持するため,LEMからP社に資金を貸し付けてP社から興行主への支払を続けようと考え,LEMにおける興行主への前払手続を利用してP社に資金を融通することとし,同年10月から同年12月までの間,合計約46億円をP社に支払った。この支払は,LEMの決裁権限基準表上,営業保証金の差入れまたは貸付・第三債務者保証に該当することから,取締役会決議事項であったが,ここでも取締役会決議はなされておらず,A及びB以外の取締役には報告もされていなかった。
なお,A及びBは,支払期限が逼迫してP社経由では支払が間に合わないなどの場合には,LEMから直接チケット代金を支払っていた。こうした直接支払は,2009年12月から2010年1月までの間,合計約11億円である。

 

第四 本件問題の調査結果の分析と評価
  一 本件問題発生を事前に防止できなかった原因について 
    本件は,LEMの権限が集中していたA,B取締役が専ら独断的に行った行為であり,そのため,これを社内においてチェックすることは事実上困難であったといえるが,なお以下の問題を指摘することができる。
      1 LEM役員のP社に対するリスク認識の問題 
        LEMの通常のビジネスは,売却して得たチケット代金を興行終了後に興行主に支払うというものが商流の大部分であり,原則的には興行主に対する与信リスクを考慮する必要がない。また,中間業者が入る場合には興行主側が自らの関係先等を中間業者として指定することが多く,このような中間業者の与信リスクは興行主が負うことになる。そのため,LEMは,新規取引先(中間業者を含む。)に対する信用調査をあまり実施していなかったものと考えられる。
しかし,P社は,LEMが興行主に依頼して取引に入れた中間業者であるため,P社の不始末についてはLEMが事実上責任をもつよう興行主に期待されかねない関係があったものと考えられる。このような背景からすれば,P社は通常の取引先とは比較にならない大きな与信リスクを有していたが,LEMにおいて,この事実に留意し,協賛金の原資を確認するための企業調査などをした形跡は見受けられない。
      2 協賛金ビジネスに内在する問題 
        LEMが属する興行ビジネスの世界では,興行主は,より多額の協賛金を拠出するチケット業者に,集客力のある興行のチケット販売を委託しがちなため,チケット業 者にとっては,興行主にいかに多くの協賛金を支払うことができるかが営業の要となっていた。そのため,本件では,P社スキームにより,より多くの協賛金を 支払うことができるとするメリットに傾斜した結果,本件スキームに潜在的に存在する上記リスクに対する感度を鈍らせてしまったと考えられる。
      3 取締役会等における監視体制の問題
        LEMにおいては取締役会,経営会議,コミュニケーション会議,販売戦略会議等の会議体において,各種の決議議案について,それぞれの決裁権限内において議決を行っている。P社スキームについては,その開始時及びその後の初期段階での販売戦略会議等において経済的合理性についての協議が行われているが,取締役会には上程されていない。それは,LEMのこれまでの商流上,不良債権リスクを負うものが少なかったため,新たな取引開始にあたって取締役会の決議をする必要がなかったためではないかと思われる。そのため,P社スキームについては,取締役会の監視は及んではいなかった。
      4 監査役,内部監査の監視体制
        LEMの監査役会において,P社に対する前払や関連する代位弁済に関して指摘された事実はない。2009年5月に就任した常勤監査役は,前払処理に係る申請書類を確認した際にP社への前払申請書が多数あることから,P社がどのような取引先かAに尋ねたが,同人の説明を受けて了解した。
また,内部監査については管理本部が主管しているが,2009年2月以前は,内部監査担当者は1名のみであり,そのため,1年でほぼ一拠点のみを監査していたこともあって,P社取引開始後現時点に至るまで,P社との取引があった東京本社は一対象部門の監査を行ったのみであった。
      5 内部通報制度,その他
        内部通報制度は,「公益通報者等保護規程」として,通報情報,窓口,通報者保護等に係る規程があり,事業年度毎に,全従業員を対象にしてコンプライアンス研修の一環として同規程の周知を図っている。しかし,内部通報がなされた実績はない。
  二 本件問題に関する関係者の法的責任の有無について
    Aは,LEMの取締役であったところ,P社においてチケット代金を運用し,その運用益で協賛金を捻出するとともに残りを分配する意図でいながら,LEMにはこの事情を隠し,あたかもP社が協力会社から資金を獲得するなどして協賛金を拠出するかのように偽ってP社スキームの承認を取り付け,LEMをしてチケッ ト代金相当額をP社に交付させてLEMに多大な損害を与えていることから,特別背任罪や取締役の善管注意義務違反による損害賠償責任など相応の責を負うべきものと考える。
Bについては,特別背任罪成立の余地もあり,また,損害賠償責任の有無についても検討を要する。
2008年10月当時のLEM社長については,取締役の善管注意義務違反による損害賠償責任を検討すべきものと考える。
P社関係者にも,刑事・民事について相応の責任が生じる余地がある。

 

第五 本件問題に対する緊急再発防止策について
  本件のような不正な資金流用を再発させないためにLEMが当面緊急対応策として実施している事項は,以下のとおりである。
    1 権限集中の解消
      本件では,営業と管理の権限が集中していたA,B両取締役によって不正行為が行われた。特に,管理部門に関しては,Bが総務,法務,財務経理等の管理に関する主要な機能について横断的な権限を有していた。LEMは,本件発生後,従前の管理本部を解体し,財務経理本部,総務本部,内部監査室,経営企画室としてこれらの機能を分化し,それぞれに権限を付与することにより部門間の牽制機能を充実させた。
    2 取引開始・継続時における手続
      本件では,P社を取引に介在させたことにより不正な資金流出が行われているが,取引開始時またはその後においても,販売戦略会議等の会議体による取引リスクの検討が不十分であり,また,外部機関によるP社の調査も実施していなかった。現在では,取引価格の大きな取引先や変則的な商流の取引先等については,取引当初または取引途中時においても,販売戦略会議等の会議体において取引リスクの検討が厳格に行われる体制を整えている。なお,外部機関による取引先の信用調査を行うことについて,今後検討する余地がある。
    3 支払締め日
      LEMの支払は,興行締めと月締めとがある。興行締めは興行終了後にチケット代金を興行主に支払うものであり,月締めは月次で興行主に支払うものである。P社との取引においては月締めであり,興行終了前でもチケットが販売された分について月次で支払を行っていた。
しかし,興行終了前の興行主への支払は,興行終了までLEMが与信リスクを負うことになるので,原則として取引は興行締めで行い,例外的に月締めによる取引を行う場合は,決裁権限基準表に則って販売戦略会議の議決と上長の承認を必要とするほか,さらに,総務本部において支払をチェックする体制を新たに構築した。
    4 前払金の業務プロセス
     

本件では,2009年10月以降,営業本部長であるAと管理本部長であるBの承認だけで約46億円の前払金の支払が行われている。現在では,同様の支出が行われないよう,前払金の支払時には,既にチケット販売が開した興行に関するものであり,かつ,預かっている金額以内の前払であることを総務本部においてチェックする体制を構築した。

    5 支払時のチェック
      2008年10月に行われた代位弁済時においては,一度支払を実行した興行に関して再度支払を実行するために,残高システムの営業未払金台帳上のP社債務に関連するその他の興行コードに対して支払処理を行い,かつ,支払先を変更することで実行している。残高システム上,ある興行コードに関する支払を別の興行コード の支払として処理することは,経理担当者が容易に実施でき,また,支払先変更についても,営業部門の申請だけで処理が可能となっていた。現在では,残高システムにおける興行コードごとの支払が適切に行われていることを総務本部においてチェックする体制を構築するとともに,支払先変更処理についても総務本部の承認を必要とする体制を構築した。なお,残高システムについては,興行コード毎の管理が適切かつ効率的に実施しうるようなシステム変更を検討する余地がある。
    6 会計数値の分析
      本件では,不正な資金流出が行われた年月においては,貸借対照表上の営業未払金や資金運用残高に大きな歪みが出ていたにも関わらず,取締役会等における報告では不正行為が発見できなかった。そこで,現在では,財務諸表の一科目ずつの増減分析だけでなく,財務諸表全体の数値から,流動比率,固定比率等,LEMの財務状況を理解するために適切と考えられる比率を算出し,長期 的な視点も取り入れた上で比較分析を行うこととした。

以上